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 トップページテクの雑学 > 第12回 コンセントからインターネット? − 新たなインフラ=電力線通信の正体 −
テクの雑学

コンセントからインターネット? − 新たなインフラ=電力線通信の正体 −

 そろそろ朝晩の冷え込みが厳しい季節になってきました。外出先から帰って熱いお風呂につかっていると、つくづく日本に生まれて良かったなあ、などと思ってしまいます。
 日本人が湯船につかる習慣は、国土が狭く中央部に山岳地帯が集中する地形あってこそのものだと言われます。それがもたらしてくれる豊穣な水資源があるからこそ、湯船にお湯を溜めることが“日常の光景”となったわけです。また、近代においてはガスや電気など「ライフライン」の整備が進んだことで、各家庭でいつでも湯船につかれる幸せが実現されていることに、あらためて想いが至ります。

 さて、「ライフライン」と呼ばれるものは、3種類に大別できます。まず、ガスや水など「物質」を運ぶもの。具体的にはガス管や水道管ですね。2番目は「エネルギー」をやりとりする電線です。そして3番目が「情報」を伝達するもので、電話回線とTVやラジオなど電波による送受信がこれに該当します。
 昨今では、各「ライン」の高機能化/多機能化も進められ、家庭からインターネットに接続するための仕組みも、ほとんどの場合はそこに組み込まれています。今も昔も中心になっている、電話回線を利用しての接続(ダイヤルアップ接続、ISDN接続、ADSL接続)も、もともとはインターネット接続を想定したものではなかったわけです。それをネット接続=データ信号送受信用にも使えるようにする仕組みが開発されたことで、今では当然のようにインターネット接続に使われていますね。前回とりあげた光ファイバーによるインターネット接続も、ケーブルTVや電気/ガス会社が、それぞれの持つライン(管)に光ファイバーケーブルを組み込んでいることで実現しているわけです。

 こうなると、ライフラインの中でインターネット接続に利用できないのは電線だけ……と思ってしまいがちですが、実は電線を使ったインターネット接続の仕組みも着々と開発が進んでいます。「PLC(Power Line Communication。電力線データ通信、高速電力線通信, 電灯線搬送通信など多数の呼称がある)」と呼ばれる技術で、すでに各地で実証実験が行なわれています。

 PLCの特長は、データの送受信口としてごく普通のコンセントが使える点です。パソコン等からPLC用モデムの間は通常のLANケーブルで接続しますが、その先は給電用の配線をそのまま使ってデータを送受信します(現在実験用に試作されているモデムでは、一般的なLANケーブルを使っているものもあります)。
 PLCが実用化されれば、建物内でのLAN構築はたいへん容易なものになります。なにしろ、電力供給用のコンセントはまず間違いなく各部屋に配置されているものです。最近の新築マンションや注文住宅などでは、各部屋にLAN用のコネクタを設けるケースも増えていますが、PLCなら最初からまず間違いなく各部屋に設置されている給電用コンセントを共用するだけですから、LAN構築のためのコストが格段に安く済みます。また、将来的に無線LANのアクセスポイント機能を組み込んだ分配用タップなどが実用化されれば、建物内でのLAN/インターネット接続の自由度は現在とは比較できないほど向上するわけです。

電力線通信(PLC)の原理

 電力をやりとりするための電線を使ってデータをやりとりするというのは、なんとなくピンと来ない話ですが、考えてみれば電線も電話線も同じような金属製のケーブルです。また、電話線による音声信号やデータ信号も、実のところ電気信号=電気のやりとりですから、電線で同じことができても何ひとつ不思議ではありません。
 ADSLを例に考えてみましょう。ご存じの通り、ADSLは電話回線用の金属製ケーブルに、データ通信用の信号を混在させてインターネットに接続する技術です。電話回線に2種類の信号を流すわけですが、この2種類の信号を選別し、それぞれをきちんと取り出せる仕組みさえ作れれば、電話線にネット通信用のデータを混在させてもまったく問題ありません。通常、電話の音声信号は4kHz以下の周波数を使ってやりとりされています。同じ電話線に流されるデータ信号は35kHz以上の周波数を使っているので、ふたつの信号は明確に区別できます。具体的には、受信時に「スプリッター」という装置を使い、4kHz以下の信号と35kHz以上の信号に分離し、それぞれの送受信器へ振り分けられています。

 PLCも、基本的な仕組みはまったく同じです。電力は関東では50Hz、関西では60Hzで供給されていますが、そこに異なる周波数帯を使ってデータ通信を行なうわけです。また、実はPLC自体はすでに実用化されています。電気会社が設備用の機器管理のため、10kHz〜450kHzの周波数でデータ通信を行なっているのです。ただし、これは通信速度の面では9600bpsとかなり低速に留まります。インターネット接続目的のPLCでは、より高速な通信を行なうために2MHz〜30MHzといった周波数帯を使うことが想定されています。
 この周波数帯を使い、現時点で試作されている実験用機器では、最大200Mbpsの高速通信が可能です。また、これは現状のPLC用チップの理論値の限界なので、将来的にはさらに高速化される可能性もあります。
 電話回線以上に普及しているはず(電気が通っていなければ、当然電話もできません)の電線を使った高速PLCですが、実用化と普及にはまだしばらく時間がかかりそうです。最大の問題は、意外や「電波法」にあります。現状の電波法では、PLCが想定しているデータ通信用の周波数帯は、一般に開放されていません。この周波数帯を広く一般のデータ通信に使うようになった場合、電線から漏洩する電波によって、短波を使う放送事業者や業務用無線、アマチュア無線などに電波障害を引き起こす懸念があるためです。世界規模で見てみると、すでにドイツやスペインではPLCが実用化されている地域がありますが、それらの地域では、電線は地中に設置されているため、電波漏れの問題が起こりにくいことで実用化に踏み切れたようです。

 そのような問題を避けるため、現在日本国内で想定されているPLCインターネット接続は、基幹回線網は光ファイバーを使い、そこから家屋までの「ラスト1マイル」ならびに家屋内のネットワークをPLCで構築するものですが、それでも間接的に生じる電磁波によって、ケーブルTVや医療機器へノイズ障害を生じさせる懸念が指摘されています。
 何より問題なのは、電力供給用のケーブルが高周波数帯での使用を想定していなかったため、漏洩によるノイズ対策が十分ではないことです。PLC実現のためにすべての電力線をノイズ対策済みのものに入れ換えるのでは、低コストというメリットが半減してしまいますし、現状の電話回線を代替する理由も希薄になってしまいます。

電力線通信方式の課題

 可能性は非常に大きなPLCですが、はたして実用化の日はやって来るのでしょうか? 最近のIT系展示会などでも新たな機器が数多く出品され、技術革新も日々進んでいるようです。ADSLも、実用化する前の段階では似たような問題に対する指摘が数多くありましたが、今日ではほぼ解消されているのはご存じの通り。PLCに関しても、今しばらくは期待しつつ、動向を見守っていきたいと思います。

関連情報リンク、ならびに情報協力
高速電力線通信推進協議会


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経クリック誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
PC自作の鉄則!2005」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)


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