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ノイズを反射・吸収するチップビーズ
0か1かのパルス電流として送られるデジタル信号は波形が命。この波形を崩すノイズを反射したり、吸収して熱に変換してしまうのが、フェライトならではの特性を利用したチップビーズ。回路に直列に挿入するだけですむので、基板パターン設計後のノイズ対策としても効果的。小型ながら実に頼もしいノイズ対策部品です。
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■ パルス波はさまざまな周波数成分の集まり |
このところ次世代の近距離無線通信システムとして、UWB(ウルトラワイドバンド)通信が注目を集めています。UWB通信は“USB2.0の無線版”とも呼ばれています。USB2.0はデジタル機器を簡単に接続できる高速インタフェース。その便利さをワイヤレスで実現するのがUWB通信というわけです。100Mbpsを超える光ファイバなみの通信速度により、ハイビジョンの動画データもリアルタイムに転送可能。無線LANなどと棲み分けて、ユビキタス時代のパーソナルネットワーク(PAN)の中核になるともいわれています。
一般的な無線通信は信号波を搬送波に相乗り(変調)させて伝送する方式です。一方、UWB通信は搬送波を使わず、データをきわめて広い周波数帯域(ウルトラワイドバンド)に、時間幅の小さなパルス波の列として送信します。パルス波というのはさまざまな周波数成分の集まりです。UWB通信は1ナノ秒以下という超短時間のパルス波を使うため、きわめて広い周波数帯域に信号が拡散されることになります。
2002年、米国FCC(連邦通信委員会)は3.1〜10.6GHzのマイクロ波帯を民間のUWB通信用に開放しました(日本や欧州でも周波数帯域の開放、規格策定の準備が進行中)。しかし、マイクロ波帯は新たな無線通信が参入できないほどの超過密状態です。3.1〜10.6GHzもの広い周波数帯を占有するUWB通信が、いったいなぜ許されるのでしょうか?
静粛にしなければならない会議の席上でも、隣どうしの会話は周囲に聞こえない程度なら許されます。UWB通信はそれと似たようなもの。パソコンはじめ身の回りの電子機器は、多かれ少なかれすべてノイズを放射しています。UWB通信では電波の強度をこのノイズ以下の微弱レベルに抑えることを条件に、広い周波数帯の使用が許されます。この規制値を超えると、他の無線システムとの干渉など、甚大なノイズ障害を起こすおそれがあるので、UWB通信機器・アンテナの評価がきわめて重要になるのです。
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■ チップビーズはインダクタと抵抗の性質をあわせもつ |
デジタル信号の矩形(方形)波も、基本周波数のサイン波とその高調波(基本周波数の整数倍の波)が合成されたものです。
信号ラインに電流が流れると磁力線が発生します。また、信号ラインには抵抗成分があり、信号ラインとグラウンド間には浮遊容量と呼ばれる目に見えないコンデンサ成分も存在します。信号ラインにはこうした回路図には描かれていない“隠れ素子”があるため、たとえ入力信号が理想的な矩形波であったとしても、波形が歪んだり、クネクネと波打ったりします(リンギング)。とりわけ送信側と受信側のインピーダンス(交流に対する抵抗)が不整合の場合、信号ラインの境界部で信号は反射波として戻され、回路の誤動作の原因になったり、ノイズとして周囲に放射したりします。
こうしたノイズ問題の簡便で効果的な対策として多用されるのが、フェライトの特性をたくみに利用したチップビーズです。チップビーズはネックレスなどに使われるビーズ(管玉)にちなんだネーミング。最も簡単なチップビーズは、中空のフェライトに導線を貫通させた構造となっています。このフェライトのトンネルの中に信号が通過させると、元の信号波形をほぼ保ちながら、ノイズ成分だけを除去することができます。
しかし、ノイズも信号と同じ電気エネルギーです。フェライトのビーズは、なぜノイズ成分だけを選択的に除去することができるのでしょうか?
これはチップビーズがインダクタ(コイル)と抵抗の性質を併せもっていることによります。低周波領域では主にインダクタ成分が機能します。インダクタは周波数に比例してインピーダンスが増加する性質を持っています。一般的にノイズは信号に比べ周波数が高いので、高周波でのビーズの高いインピーダンスは選択的にノイズに作用することになります。また低い周波数の信号に対してビーズは作用せず、全てを通過させます。
次にビーズのノイズに対する働きをもう少し詳しく説明します。先に述べたように低周波領域でインダクタ成分が機能するためノイズは反射され、高周波領域では主に抵抗成分が機能してノイズを吸収するという面白い特性を示すのがチップビーズ。この機能の切り替わる周波数は、抵抗成分(R=レジスタンス)とインダクタ成分(X=リアクタンス)が等しくなる点で、R-Xクロスポイントと呼ばれています。
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