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カーエレクトロニクスがもたらすクルマの近未来 Volume.3 『車内のネットワーク化(車内LAN)と協調制御』

カーエレクトロニクスがもたらすクルマの近未来 Volume.3
『車内のネットワーク化(車内LAN)と協調制御』

 カーエレクトロニクスの今後の主要な開発テーマは、「ネットワーク化」と、それによって実現する「協調制御」です。今回はその概要についてお話ししましょう。

ネットワーク化がもたらす機能性の向上
 コンピュータ・ネットワークの世界は、「中央集権型」から「権限分散型」へ進化して来ました。大昔の業務用コンピュータシステムは、巨大なホストコンピュータに複数の端末がぶらさがる、中央集権型のネットワークで構築されていました。システム全体が動作するための処理も、端末から要求される計算処理も、基本的にホストコンピュータがこなします。端末はホストコンピュータへの入力(処理要求)と、その結果を表示するための装置にすぎず、CPUを搭載しないものも珍しくありませんでした。
 その後「UNIX」の登場によって、ネットワークの構成が大きく変わります。UNIXのネットワークでは、作業用コンピュータ同士が、ネットワークの調停・調整、データベース処理やファイル保存などの役割に特化した「サーバー」を利用しながら接続される形態を基本としています。用途によってホスト→端末的な構成も実現できますが、ネットワークの末端に位置するものが単なる「端末」ではなく、自ら処理能力を持つコンピュータとなったことで、中央集権型ネットワークである必然が薄れて来たのです。
 さらに「パソコン」が登場し、高性能化と低価格化が進んで一般的な業務処理の多くをこなせるようになったことで、現在ではUNIX型ネットワークをパソコンで構築するスタイルが主流となりました。ここ数年は、ネットワーク上のパソコン同士がCPUの処理能力を提供し合うことで強大な処理能力を実現する「グリッド・コンピューティング」も普及しています。

 カーエレクトロニクスの世界でも、同様の流れが起こることは必至です。現在は基本的にECU(Engine Control Unit)と呼ばれるコンピュータに各部の制御機能がまとめられていますが、ECUが搭載するCPUの処理能力は、マイコン家電などに搭載されているものと大差ありません。今後、電子制御化される部分がどんどん増えていくこと、さらにそれぞれが高機能化・高性能化する上で処理速度の高速化が必要になってくることを考えると、ECUの処理能力を強化するのではなく、UNIX方式で各部がCPUを搭載して処理を行なう方向性は、ある意味で自然な流れです。
 例えばカーナビゲーション・システムは、それ自体が独立したコンピュータです。メーカー純正装着品の場合は、その処理・制御機能もECUにまとめてしまえば部品点数削減などに役立ちますが、実はカーナビが行なっている処理は非常に複雑なもので、現状のECUが余力でこなせるようなレベルではありません。ならば無理に統合せず、カーナビ機能に必要な処理はカーナビに任せておく。その代わりに、ECUとカーナビの間をネットワークで接続することで、何か新しい機能は実現できないか? という発想が出てきます。

益々進んでいく自動車の電子制御化
 今後、カーエレクトロニクスが進化していくにつれて、自動車を構成する各部の機構が電動化、もしくはそれを前提としたものに置き換えられ、同時に電子制御化されていくことは必至です。ブレーキやスロットル、ステアリングといった、従来は機械的な結合で操作されていた機構が、モーターを利用した機構に置き換えられる「x-by Wire」化などが好例ですが、それぞれの機構を高機能化する上では、基本的な制御を各部で処理してしまうUNIX型のネットワークが採用されていくことになるでしょう。さらに、機構間をネットワーク化することで「協調制御」を実現し、より高度な制御を実現したり、新しい利便性を生み出す。その実現のために重要になってくるのが、「車内LAN」の構築と高機能化なのです。

車内LANで構成される主なエレクトロニクス装置
現代のクルマには、モーターで駆動される機構、情報系の電子デバイス、機械的な機構であっても電気/電子制御される機器(メカトロ機器)が満載されている。その主要なものを列挙してみた。これらの制御は、ECUで行なっているものもあれば、専用の制御系を持つものもある。いずれはブロックごとの制御や機器単位での制御が基本になるだろうが、その場合、連携・協調して動作したほうが望ましい機能をネットワークで接続することで、より高性能化を図ったり、新たな機能を実現することが「車内LAN」の意義だ。

 カーエレクトロニクスの世界では、協調 or 連動制御という発想自体は特別に新しいものではありません。すでに数多くの「連動制御」が実用化されています。
 最初に導入された例は、エンジンの点火系の制御と燃料噴射の連携でしょう。自動車のエンジンは、バッテリーから供給される電力を昇圧して作り出した高圧電流を点火プラグへ送り、電気火花を発生させることで点火しています。もともと電気を使う分野であったこともあってか、システムの電子化、回路化がかなり早い段階から進められて来ました。30年ほど前の段階で、トランジスタやCDI(Capacitive Discharge Ignition 容量放電点火)による点火タイミング制御がそう珍しいものではなかったほどです。
 燃料噴射も、比較的早い時期に電子制御化が進められた分野です。エンジンは、内部のシリンダーに燃料と空気を混ぜた「混合気」を送り込み、着火することで出力を取り出します。それだけに、混合気の濃度(混合比)と量は、エンジンの出力はもちろん、排気ガス中に含まれる有害物質の量や燃費といった要素に大きく影響して来ます。
 基本的には燃料の比率が低い=薄い空燃比であるほど排ガスがクリーンになり、燃費も向上しますが、その反面で熱と圧力によって自然着火してしまうといったトラブルや、加速性能の低下といったデメリットも生じます。ガソリンエンジンの場合、理論上最適な空燃比(空気と燃料の混合比)は14.7対1ですが、実際には状況によってベストな空燃比は刻々と変わるものです。例えば高地や夏季など空気中の酸素濃度が低い状態や、加速のためにパワーが必要といった場合はやや薄めの、酸素密度の高い冬季や巡航状態ではやや濃いめの空燃比がベストになります。
 1970年代までは、混合気を作る「キャブレター」という機構の内部にある経路のサイズを変えることなどで空燃比を変えていましたが、その後排気ガスのクリーン化や燃費向上を目的に、状況に応じて空燃比を最適に変更するための仕組みとしてEFI(Electric Fuel Injection 電子制御式燃料噴射装置)実用化されます。気温、酸素濃度、シリンダー内部の燃焼状態といった要素をセンサーで検知し、状況に応じて燃料噴射量を増減させ、常にベストな空燃比を実現するシステムです。そしてEFIには、その効力をいっそう高めるために点火系と連動する仕組みが取り入れられました。この仕組みのおかげでエンジンの性能は全方位で飛躍的に向上したのです。

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