|
Updated Apr.10,2005
Adventure into The Material World Part1 No.50
光る石に魅せられて
■■ フッ素化学を生んだ鉱物 ■■
加熱すると青っぽい光を放つことから、蛍石(ほたるいし)という和名をもつ鉱物があります。英語ではフルオライト(fluorite)といい、これは“流れる”を意味するラテン語を語源とします。ヨーロッパでは高炉の中の鉄鉱石を溶かし流す融剤(フラックス)として、蛍石が使われていたからです。
蛍石はフッ化カルシウム(CaF2)を主成分とする鉱物です。フッ素をフルオリン(fluorine)というのも、この元素が蛍石から発見されたことからの命名です。蛍石の粉末を硫酸に混ぜると、ガラスを腐食する不思議な薬液(フッ化水素酸)が得られることは、17世紀のガラス工芸家たちに知られていました。この薬液は透明ガラスを磨りガラスにしたり、エッチング技法によって文字や絵模様をつけるのに利用されていました。薬液の製法は秘密にされていましたが、18世紀に公開されるや、多くの化学者の注目を集めることになりました。原料である蛍石の中に、未知の元素が存在するのではないかと考えられたからです。
白金電極を用いた低温の電気分解法により、初めてフッ素の分離に成功したのは、フランスの化学者モアッサンです(1886年)。この業績により彼は1906年のノーベル化学賞を受賞しました。
フッ素はきわめて反応性が強く、有機物などとも容易に反応するため、周期表の暴れん坊とも呼ばれます。しかし、いったん化合物となってしまうと、安定した性質をもつようになり、さまざまな有用材料が得られます。ここから20世紀にフッ素化学という分野が生まれ、テフロンやフロンなどの新材料が開発されました。蛍石という名を“フッ素石”とでも呼びかえてみると、この鉱物の化学的な素顔がよく見えてきます。
■■ カメラレンズにも使われる蛍石 ■■
太陽光にしばらく当てると、暗闇の中でも光を発するボローニャ石と呼ばれるものが、17世紀のヨーロッパで出回っていました。光を吸い寄せる“光のマグネット”とも称され、また、これこそ卑金属を黄金に変える“賢者の石”であると勘違いした錬金術師もいます。実際はイタリアのボローニャ地方に産する重晶石(じゅうしょうせき)を原料とした加工品です。重晶石の主成分は硫酸バリウムですが、さまざまな微量金属を含んでいます。このため、焼いてから粉末にして固めるといった特殊な処理をほどこすと、蛍光を発するようになるのです。
蛍石もまた加熱するだけでなく、太陽光(紫外線)の照射によって蛍光を放ちます。そもそも蛍光=フルオレセンス(fluorescence)という言葉は、19世紀イギリスの物理学者ストークスが、蛍石の発光現象を呼ぶのに提案した用語です。当時、透明な蛍石の結晶はプリズムやレンズの材料としても使われていました。このため蛍光という現象を光学的に研究するには、蛍石はきわめて好都合な材料だったのです。ストークスは蛍石のプリズムを使って、蛍光として発せられる光の波長は、吸収される光の波長よりも長くなることも発見しています。これをストークスの法則(ストークスシフト)といいます。
蛍石の透明結晶はカメラや望遠鏡のレンズとしても使われました。レンズを通る光の屈折率は光の色(波長)によって異なります。このため、拡大率が大きいほど光は分散し、輪郭部が虹色にぼけてしまいます。これを色収差といいます。蛍石の結晶の屈折率は光学ガラスの屈折率よりも低いため、これらを組み合わせると、色収差を大きく低減することができるのです。
かつては天然の蛍石を研磨してつくられていましたが、レンズにできるほどの大きさと高い透明度をもつ結晶はかぎられています。そこで、近年は蛍石の人工結晶が製造されるようになり、一眼レフカメラやデジタルビデオカメラの望遠レンズなどに採用されています。これは蛍石(けいせき)レンズとかフローライト(フルオライト)レンズと呼ばれています。人工宝石のようなレンズなのでかなり高価ですが、超望遠でもきわめてシャープなカラー画像が得られます。
■■ 多種多様なルミネセンス現象 ■■
蛍光はルミネセンスと総称される物理現象の一種です。物質が外部からエネルギーを得ると、電子は低いエネルギー状態から高いエネルギー状態へと励起され、再び低いエネルギー状態へと戻るとき、そのエネルギー差を光として放出します。これをルミネセンスといい、外部から加えられるエネルギーの違いによって、さまざまなタイプに分類されます。加熱による蛍石の発光は熱ルミネセンス、太陽光(紫外線)の照射による発光は光ルミネセンスです。
犯罪捜査などで使われるルミノール試験は、化学ルミネセンスを応用したものです。ルミノールという試薬が過酸化水素などで酸化されるとき、青色の蛍光を放ちます。このとき鉄や銅などの金属は反応の触媒となり、発色を著しく強めます。血液には鉄が含まれるため、小さな血痕もはっきりと鑑識できるのです。
暗闇の中でガムテープを勢いよくはがすと、一瞬、青い稲妻のような光が見えます。また、水晶などのある種の鉱物結晶に応力を加えても発光します。力学的エネルギーの一部が光に変換されたもので、これらは摩擦ルミネセンスと呼ばれます。身近な材料では、氷砂糖をハンマーで叩いても光が発します。
テレビのブラウン管の画像は、電子銃から飛び出した電子が、ブラウン管の蛍光体に衝突して発光させる陰極線ルミネセンスを利用したもの。光の3原色であるR(赤)・G(緑)・B(青)ごとに、さまざまな蛍光体が開発されてきました。かつて“キドカラー”という名で登場したカラーテレビは、希土類元素の添加によって蛍光体の発色を改良したことからのネーミングです。

| |
《コラム・製品情報》
大型液晶テレビにも多用される
DC-ACインバータ
電界を加えると光を放出する固体材料があります。1930年代に硫化亜鉛(ZnS)において初めて確認された現象で、エレクトロルミネセンス(EL)といいます。液晶ディスプレイ(LCD)にかわる次世代フラットパネルディスプレイとして注目を集めている有機ELディスプレイは、このエレクトロルミネセンスを利用した表示デバイス。発光のしくみはLED(発光ダイオード)と似たもので、電極から送られる電子とホール(正孔)が再結合するときに有機分子が励起され、元の状態に戻るとき光が放出されます。
有機ELディスプレイは自発光タイプなので、液晶ディスプレイのようにバックライトを必要としません。しかも、視認性や応答性にすぐれ、低消費電力という特長をもっているため、携帯電話やPDAなどのモバイル機器、またカーナビやカーオーディオのディスプレイなどとして最適です。単色表示からマルチカラー化を経て、現在はフルカラー化と大画面化の技術確立が待たれています(有機ELディスプレイの技術に関して、TDKはイーストマンコダック社よりライセンス供与を受けています)。
自発光タイプではない液晶ディスプレイはバックライトを必要とし、とりわけ大画面液晶テレビではバックライトの高輝度化が求められます。そこで活躍するのが薄型化に対応したTDKのDC-ACインバータ。プラズマテレビでも電源用小型トランス、SMD高耐圧コンデンサなど、さまざまなTDKの各種電子部品が多用されています。
|
|
|