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第22回「感覚と磁気」
-視覚は磁場の影響を受けている?- |
■磁気は脳に直接作用して視覚に異変をもたらす?
われわれ人間でも、暗闇の中でいきなり物音が聞こえると、実際は何も光ってはいないのだが、火花のようなものが見えることがある。また、頭部に衝撃を受けると、俗に“目から火が出る”ような体験をする。同様に地磁気や人工的な磁場環境の変化が、われわれの脳に働きかけて、視覚に影響を与えていることも十分に考えられる。
カナダの脳外科医ペンフィールドは、治療のために患者の頭蓋を開いた際に、脳の各部位に電気刺激を与えて、それがどのような反応をもたらすかを研究した。これによって大脳皮質の運動野と感覚野の機能分担がはじめて明らかにされた。
しかし、研究目的のために頭蓋をむやみに開くわけにはいかないし、頭皮から電気刺激を加えるのも、被験者に苦痛を与える。そこで、電気刺激にかわる手段として考えられたのが磁気である。磁気ならば骨や膜に遮断されずに大脳皮質にまで到達するし、MRI(核磁気共鳴映像法)が医療に応用されているように生体への安全性も確認されている。しかし、これまで脳に局所的に強力な磁気刺激を連続的に加える装置がなく、それが可能になったのは、ようやく1990年代になってからのことである。
コイルを取り付けた電極を頭皮に貼りつけてパルス状に電流を流すと、発生する磁場によって脳内で渦電流が生じる。この渦電流によって脳細胞を反応させて、感覚にどのような影響を与えるかを調べようというのが磁気刺激装置である。
連続的に強力な磁場を発生する磁気刺激装置は世界に数えるほどしかなく、まだ改良途上の段階だが、これまでの研究だけでも、言語脳と呼ばれる左脳に加えた磁気刺激は、言語能力や計算能力に影響をおよぼすことが明らかにされている。また、後頭部に磁気刺激を加えると、ステレオグラム(赤と緑の眼鏡による立体視)によって見えている立体感が瞬間的に消失することも、日本の研究者によって発見されている。
しかし、磁気刺激装置の被験者は、実験によって視覚に異変が現れたことが分かるが、われわれは磁気そのものを感知できないために、外部磁場を原因とする視覚異変は、日常生活においては突き止めようもない。単なる目の迷い、気のせいですましている可能性もある。言い換えれば、われわれは地磁気をはじめとする外部磁場の影響を受けた視覚によって、世界を眺めているということになる。
もとより、われわれの眼は外界の物体そのものをとらえているようでいて、実は視神経で伝えられる電気信号から、脳が再構成した画像をとらえているにすぎない。赤・緑・青を光の3原色というのも、視細胞の錐状体には、これら3色の光の波長に特異的に感度を示す色素が存在するからである。光の3原色とは人間についていえることであり、他の生物においては別の原色をもっているかもしれないのだ。われわれには見えない赤外線をキャッチするというヘビは、赤外線をある特別の色彩として感知しているとも考えられる。
■仏教の「色即是空」は科学的にも正しい?
人間の色覚異常は、視細胞の錐状体の機能異常が原因と考えられているが、色覚異常の人がいったい自然界をどのような色彩で見ているかは、なかなか理解しがたい。色覚異常であった化学者ドルトンは、通常人と異なる自らの色覚を科学的好奇心で考察している。ドルトンが語るところによれば、赤と緑の色覚は他の人々と異なるようだが、両方がまったく同じように見えるわけでもなく区別はつくのである。しかし、どのように区別しているかは、通常の色覚をもった人間は推測しようもない。
空は青く、血は赤く、草木は緑というように、われわれは物体には固有の色彩があると思っているが、色覚というのは光の波長の違いを識別するためのもので、色彩の印象の共通性というのは、あってなきがごとく空虚なものである。それは同じ色彩を見ても、人によって反応の仕方が異なることからも分かる。
たとえば、移ろいゆく季節は、自然の色彩の変化としても現れるが、そのとらえ方は各人各様なのかもしれない。「十人十色」という言葉もある。また、希望を失ったときに、世の中が灰色に見えたりするのは、単なる比喩を超えて、本人の視覚にはそう現れているのかもしれない。それと同様に感覚器官で直接にとらえられない外部磁場の変化は、われわれが気づかないだけで、視覚や心身状態にも微妙な影響を与えていることも考えられる。色彩、色覚、その磁気の影響などを突き詰めて考えていくと、仏教の説く色即是空=空即是色の世界に、かぎりなく近づいていくことを知る。おそらく人間には、いまだ科学が究明していない五感を超える感覚があるのだろう。
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